2019年01月16日

本日、コインハイブ事件の証人尋問が行われました。

検察側の反対尋問中に、弁護人から「これらの質問は伝聞にあたるのでは」といった趣旨の指摘がされ、反対尋問の内容を変更したと思われるシーンがあり、これについて、認識を誤っている人がいたため記事にしています。

元々記事にするつもりはなかったので、メモは中途半端にしか取っておらず、質問内容全てはここではわかりません。
しかし、全体の流れについては簡単に紹介します。

本日行われたのは、弁護側の証人に対する証人尋問です。
コインハイブについて、Webプログラム全般の技術的・法的な知見を有しているとして、高木浩光先生が呼ばれました。

弁護人による主尋問では
・高木先生の経歴
・不正指令電磁的記録に関する罪を制定するための法務委員会で参考人として呼ばれた当時、委員会で問題視されていた点について
・様々なプログラムが処罰対象となりうる可能性の問題
・JavaScriptについて
・コインハイブの設置と動作について
・クリプトジャッキングとの違いについて
・検察の捜査と検証内容に対する事実誤認について
・検察の主張する「CPU処理能力の低下」「PCの短命化」「消費電力の上昇」について
を、全体の流れとして尋問しました。
(抜けている質問もあると思います)

主尋問まで詳細に記載すると長くなりすぎて集中力がもたないので省略します。
全体を通して、高木先生は、コインハイブに違法性(少なくとも、刑事罰の対象とするべき要因)はないことを主張しています。

これに対し検察による反対尋問では、この高木先生の証言の信用性や、コインハイブに対する他の技術者の評価についてを主に重点的に尋問されました。

流れとしては
・高木先生の経歴について
・参議院の法務委員会に参考人として呼ばれた時のこと
・コインハイブによるPCへの悪影響について
・JavaScriptの一般ユーザーの認識について
・高木先生の個人ブログについて
・他技術者のコインハイブに対する反対意見について
・ウイルス対策ソフトとコインハイブについて
を主に質問されていました。

しかし
・高木先生が法律の専門家ではないという質問(具体的には、法学部や法科大学院は出ていないという指摘)
→非常勤として法学部(法科大学院?)で個人情報保護法(すみません、この辺りうろ覚えです)に関する講師をしていたことがある
・法務委員会の参考として呼ばれたのは、法律に関する事ではなく、プログラムなど技術面での参考人として呼ばれたのではないか
→どういう意図で呼ばれたかは分からないが、法律面の質問はあった

など、初っ端から検察が証明したかったであろう「高木先生は法律の専門家ではない」という事実の証明は出来ていないように感じました。

そこで、コインハイブの登場が近年(2017年9月)であることから、不正指令電磁的記録に関する罪について法務委員会で議論があった際に、コインハイブが規制対象となるか否かは議論をされていない点について指摘しました。
これによって、「規制対象となりうる」という点を証明したかったものと思われます。
(メモに残っていませんが、議論されていないと回答されているはずです)

その後、コインハイブとJavaScriptについての質問が続きます。

コインハイブ設置のwebページ閲覧によるCPUの損耗があるか
→ない(あるわけない)
コインハイブ設置のwebページ閲覧によるCPU負荷について
→さっきも言ったが負荷はOSのロードの話であって、CPUの使用率とは別のもの
(省略しましたが、主尋問中に、OSへの「負荷」とCPUの「使用率」の違いについて証言されていました)
コインハイブ設置のwebページ閲覧によってバッテリーが減るのではないか
→デスクトップパソコンにはそもそもバッテリーは備わっていないが、ノートパソコンの電源コードを外した状態であれば、付属バッテリーは減少する

JavaScriptを動かす事に対して、事前に承諾を取るwebサイトはないと言ったが、すべてのwebページを確認したのか
→そもそもすべてのwebページを確認することなど不可能
「JavaScriptを動かす事に対して、事前に承諾を取るwebサイトはない」と証明しているwebサイトはあるのか
→分からない
JavaScriptの動作をさせるにあたって包括的承諾(承諾を取るまでもなく受け入れられているという認識)があるとお考えか
→あると考えている
JavaScriptがどういったものなのか、知らないユーザーもいるのではないか
→それはいるだろう

コインハイブについてはPCに与える悪影響について、JavaScriptについては一般ユーザーの認識についてを重点的に質問していたように思います。
ただ、コインハイブ設置のwebサイトを閲覧して引き起こされるPCへの影響は、高木先生ご本人もかなり色々実験されており、総じて「悪影響といえるようなものはない」といった回答になっています。
JavaScriptについては「事前の認諾についてすべてのwebページを確認したのか」という質問が出た時点で、この尋問失敗だなと思いました。

その後、高木先生のブログ内容に尋問内容が移行します。
取り上げられたブログ内容は以下3点
高木先生は、「警視庁の捜査指揮にない」という意味を込めて、今回コインハイブの摘発に関わった警察を「田舎警察」と称しているのですが、それが勘に触ったようで責めるような口調(偏見アリ)で「田舎警察とは神奈川県警のことですか?」と質問していました。

さらに、「このブログで神奈川県警の教育について指摘した記憶はありますか」という質問に対し高木先生は最初、記憶にないというような回答でしたが、「神奈川県警のサイバー課はどういう教育を受けているのか」という2点目のブログ内容の一文を引用していました。
これに対しては「なんてことをしているんだ、という意味合いの一文であり、教育に対して口出ししているのではない」というような回答をされていたと思います。

この時点で、私としては、検察がこの反対尋問において何を証明したいのかサッパリ分からず困惑しました。
例えば高木先生が警察に対する名誉棄損だとか業務妨害だとかで訴えられている裁判だったら、警察に対する批判的な意見の一例として記録を残しておくことに意味もありそうですが、本件訴訟においては高木先生はあくまで証人であって被告人ではありませんから、これらの質問は本当に意味が分かりません。

高木先生は、被告人が警察で受けた取り調べの内容についても一部ブログに残しています。これに対して「警察に掲載の許可は取ったのか、データ提供を受けた弁護人に掲載許可は取ったのか」などの質問もしており、これも意味が分かりません。
(本来、警察での取り調べ内容というのは、取り調べ前に所持品を預けなければいけない関係で外にでる事はほぼない)

私が言う意味が分からない、というのは、その質問によってなんの事実認定をしたいのかが分からない、という意味です。

長かったですが、ここからやっと本題です。

高木先生のブログ内容に触れて少しして、高木先生がブログで引用された、刑法学者の園田先生の意見を検察が読み上げていきます。高木先生がコインハイブに対して肯定的なのに対し、園田先生は否定的な意見をお持ちです。

検察としては、この尋問内で、少しでもコインハイブの違法性を示唆しなければいけませんから、そういう点で引用がしやすかったのだと思います。
「技術者にとっては常識的な技術でも、一般の利用者にすれば、自分のパソコンが他人に道具のように使われているとは想像できないだろうし、そうされたいとも思わないだろう」「社会的に許容されているとは言い難い」などです。これらは、読売新聞に投稿された内容だと、のちに高木先生から説明されました。

こういった園田先生の発言に対して、高木先生の意見を聞くという手法を取っていたのですが、質問というより「こういった反対意見があるがどうか」というような質問内容でした。

なので、弁護人から「これらの質問は伝聞にあたるのでは」と指摘され、裁判官から確認が入ったのです。
訴訟においては、原則として伝聞証拠を禁止しており、本件でいうならば、この場にいない園田先生の発言の真実性を、両当事者および裁判官が判断出来ないため、園田先生の意見を、事実認定の材料として採用するわけにはいかない、という事になります。

なので、裁判官から「その質問内容に事実性を持たせたいのであれば伝聞の問題が生じますが、あくまで内容に対する証人(高木先生)の意見を聞くという事でよろしいですか?」と確認が取られました。

これは私の一方的な想像ですが、証人尋問の内容に、コインハイブに対して違法性を示唆する意見もあることを記録としてきちんと残しておきたかったものだと考えます。
しかし、弁護人からの伝聞の指摘をうけて、あくまで質問内容として(事実認定の材料にはしない)という形で、反対尋問が再開されたのです。

質問内容が、本件訴訟に関係のない質問だから問題だと言ったのではなく、排除されるべき伝聞証拠として検察側が反対尋問に他人の意見を差し入れてきたことに対して、弁護人は問題だと言ったのですね。

その後、コインハイブに対する反対意見の内容から「かつて迷惑メール規制法ができたように、行政が対応するべき問題で、刑事罰によって直ちに処罰されるべきものではない」と、やはり高木先生は一貫して、コインハイブに対する違法性のなさを主張されています。

最後に、ウイルス対策ソフトに、コインハイブが検出される点について指摘がありました。
これについても「ウイルス対策ソフトは、PUPに対してもウイルスとして検出してしまう点があり、常々問題視している」と回答していましたが、ウイルスバスターが不具合でインストール出来なかった事について「それはコインハイブのせいでは?」と質問が出てきて、私は心の中で「今まで何を聞いていた!?」と叫んでしまいました。

今回、様々なところで、今日の証人尋問がどのようなものだったか述べられていますが、素人目線で見ても、ちょっと反対尋問は残念な結果になってしまったのではないかなと思います。


中途半端ではありますが、脳みそが疲れてきたので、これで締めます。



(00:15)

この記事へのコメント

1. Posted by 名無しさん   2019年01月16日 01:05
「検察がこの反対尋問において何を証明したいのか」
高木氏が信ずるに足らない人物だと思わせたかったように感じました。
2. Posted by しん   2019年01月16日 17:02
こういうのを見ると、検察の仕事ぶりには疑問を覚えますね。
客観的なものではなく、自分にとって都合の良い事柄を認定しようとしているように見えます。
検察らがよく理解していない分野なので余計にその点が明らかになっていますね。
3. Posted by Mr.サッチモ   2019年01月16日 18:07
>>1
そうなのですが、高木先生が技術的・法的な知見を有しているのは、主尋問および反対尋問序盤で証明されてしまっているわけです。
ここで更に、高木先生の証言を疑わしいものにしたい場合、証明するためにするべき質問は「高木先生は警察や検察の捜査に対して遺憾の意を示している。だから本件に対しても検察に都合の悪い証言しかしないんだ」という趣旨の質問ではなく、例えば過去に出した著書や論文に明らかな誤りがあるだとか、技術的・法的に虚偽の証言をして問題になったことがあるとか、そういう事実確認をしなければならないんです。
無論、高木先生が過去にそういった自身の信用性を落とす活動をしているとは思えませんので、無理だとは思いますが。
一個人が、警察や検察に対して抱いている感情によって、直ちに証言の信用性が上下すると判断されることは、少なくとも裁判上においてされるべきものではありません。なので、検察の質問にどのような意義(事実認定の目的)があるのか疑問である。という結論になりました。
4. Posted by Mr.サッチモ   2019年01月16日 18:16
>>2
自分にとって都合の良い事柄を認定しようとする。というのは、弁護人・検察問わず取る手段ですので、一概に非難はできません。ただ、それによって多数の冤罪が生まれているのは事実ですので、問題視されるべき事柄であるのも事実です。
質問から、検察内部でも、プログラムに関する認識理解が行き届いておらず混乱しているのだなと感じます。裁判官がこれをどう判断するのかも問題ですね。検察側がプログラムなどについて理解していないことを、裁判官も理解できれば良いのですが。
5. Posted by 甲野太郎   2019年01月16日 18:41
すみません、高木氏が法的な知見を有している、ということがどこで証明されたのか、この記事ではわかりませんでした。
法律の専門家ではない、ということが単に確認されたので、検察の意図通りではないかと思います。
おそらく、記事を読む限り、高木氏の法律に対する意見が証拠採用されることはないと思います。
(セキュリティ専門家として、それに関する発言のみ採用されるでしょう)
そもそも論として、法律の専門家である裁判官が、ちょっとかじったことがある程度の人の法律解釈に対する助言を必要とすることはありません。

それと高木氏のブログへの言及ですが、検察としては当然言及する事項ですし、すべきです。
前提として、裁判官は、裁判内での情報によってのみ判断することが要求されています。
例えば「高木浩光」でググってどんな人物か調べる、といったことができません。
そのため、証人の専門家としての信頼性を判断するには、こういった反対尋問によるしかないのです。
高木氏が警察に対して批判的であるというのは、氏の発言の中立性・客観性を評価する上で重要な情報であり、
そのような情報を提示するための反対尋問について、「それをしたこと自体」を批判するのは党派主義的意見だと言わざるを得ません。
6. Posted by Mr.サッチモ   2019年01月16日 23:32
>>5 甲野太郎さん
この記事は、検察側の反対尋問中、弁護人側が指摘した質問の伝聞についての認識を明確にする意図で書きました。主尋問の内容は殆ど触れていませんので、このブログだけを読んで尋問内容全てを把握することはできません。高木先生が求められていたのは法律の解釈論ではないと思います。内容については、ほかの方の記事を参考になさってください。
反対尋問の内容について批判することが党派主義的意見であるかどうかについて、まず私の発言が批判にあたるのかどうか、そして私が党派主義的意見を持ち合わせているのか、どちらもあなたの評価ですので、私は何も言えません。
7. Posted by 甲野太郎   2019年01月17日 00:48
検察というのも可哀想な人達ですね。
とにかく相手を自分より下に置きたいということしか感じませんでした。
スマートフォン全盛期の現代で絶滅危惧種みたいな方達のようですが、
ちょっと信じられないくらい御粗末ですね。
8. Posted by 甲野太郎   2019年01月18日 02:02
尋問では、伝聞に基づく質問、というより、被尋問者が直接的に体験していない出来事について、尋ねることを禁止していますが、同時に、意見を求める質問も禁止されています。尤も、これも被尋問者が直接的に体験した事実について、その人の考えを尋ねる分には、問題ないことが多いです。

事実認定は裁判官がすることなので、関係ありません。上記に異議をだし異議が認められた場合には、「園田先生はこう言っていますが」という質問ではなく「園田先生がこう言っているのをご存知ですか?」と体験(知っている知らない)を尋ねる質問にかえていけば問題ありません。そこで被尋問者が「知りません」「園田先生がそう言っているという認識はありません」と答えれば、それでおしまいです。
9. Posted by Mr.サッチモ   2019年01月18日 10:14
>>8
甲野太郎さん
ブログに引用されていた園田先生の発言(読売新聞の投稿引用)について、どのような考えに基づいて引用したのか、というような質問であれば問題無しということですね。
正直、私は本件傍聴内容を、傍聴当時記事にするつもりが無かったので、質問内容の文言を一言一句覚えておらず、正確な検察の質問は分かりません。なので、詳細については深く言及出来ません。

確実なものとして
1.質問の途中で弁護人から伝聞である可能性が示唆されたこと
2.質問内容についても事実であるか否かを争うのであれば伝聞の問題が生ずる旨を裁判官から検察へ伝えられたこと
3.検察は、園田先生の主張に対する意見を高木先生に伺う意図で質問している旨の返答をしたこと
です。

3.の意見を伺う質問については、ブログ作成という高木先生の体験の事実に基づく質問ととらえる事も出来ると解釈してよいですか?
(ここで質問しても仕方がないので、自分で有識者に確認します)

事実認定を裁判官がすることについては同意します。
それ以降の文章に対しては、本件尋問を借りたifの会話であるので、何も言いません。
少なくとも、そのようなやり取りは行われませんでした。
10. Posted by 甲野太郎   2019年01月18日 17:17
>>9

ブログ記事もご回答もありがとうございました。

尋問については。
http://www.kikuchi-law.jp/app-def/S-102/wp-content/uploads/2018/02/6.pdf
11. Posted by Mr.サッチモ   2019年01月19日 08:28
>>10
甲野太郎さん
こちらこそ、ご一読いただきありがとうございました。
参考資料もありがとうございます!

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